スンダの伝説~サンクリアン(Sangkuriang)~

日本と同じように、インドネシアにも数々の神話、伝説、あるいは民話といったものがあります。ここでは、主にスンダ地方に的を絞り、様々な神話や伝説をご紹介させていただきます。インドネシア、特にスンダ地方のことをより身近に感じてもらえたら、と思います。

プロローグ

サンクリアン(Sangkuriang)はスンダ地方の伝説です。

バンドゥン(バンドン)の北部にある有名な火山、タンクバン・パラフ(Tangkuban Parahu)についての物語です。この物語を知ると、バンドゥンの人々にとって、タンクバン・パラフという山がいかに大切な存在なのかが分かるかもしれません。

※タンクバン・パラフ:インドネシア語ではTangkuban Perahu(タンクバン・ラフ)ですが、スンダ語ではTangkuban Parahuとなるので、スンダ語に則り、タンクバン・ラフと表記しました。

sangkurian

地上に降ろされた神

サンクリアン物語の始まりは、天国からでした。

昔々、天国では、たくさんの神々が平和に暮らしていました。それはとても平和な世界でした。

しかしあるとき、一人の女神と一人の神が過ちを犯してしまいました。そのため、サン・ヒャン・トゥンガル(Sang Hyang Tunggal)という一番偉い神は怒ってしまいました。そして、その二人を天国から追放しました。その二人は、地上のパスンダン台地の森に降ろされてしまいました。

さらに神の怒りはこれだけではとどまらず、地上では女神は猪となり、神はトゥマン(Tumang)という犬となるという罰を受けました。

猪となった女神と、犬となった神は、パスンダン台地の森を徘徊して生きていくことになりました。

ダヤン・スンビの誕生

ある日、地上のスンギン・プルバンカラ(Sungging Perbangkara)という王は、パスンダン台地の森で狩りをしていました。そのとき突然、王はおしっこをしたくなりました。そして、王はそのおしっこをココナッツの殻に集め、その場に置いて行きました。

一方、猪になった女神は、パスンダン台地の森の中を徘徊していました。猪になった女神は喉が渇いていたので、そのおしっこをたまたま見つけ、そして飲んでしまいました。

その後、不思議とその猪になった女神は妊娠し、可愛い赤ちゃんが生まれました。

別のある日、スンギン・プルバンカラ王がまたパスンダン台地の森の中で狩りをしているときに、たまたまその赤ちゃんを見つけました。王はその子を連れて帰りました。そして、王はダヤン・スンビ(Dayang Sumbi)という名前を付けました。

美しきダヤン・スンビ

時が流れ、その赤ちゃんだったダヤン・スンビは美しい女性になりました。それはそれは美しい女性でした。

ダヤン・スンビの美しさは他国にも知れ渡りました。他の国の王あるいは王子たちは、美しいダヤン・スンビと結婚したいために、戦争を起こすようになりました。そして、たくさんの血が流れました。

しかし、心の優しいダヤン・スンビは、「自分のために戦争をしないで欲しい」と思い、スンギン・プルバンカラ王に、「森の中で一人でひっそりと暮らしたい」と言いました。スンギン・プルバンカラ王はそれを許可し、ダヤン・スンビはトゥマン(犬になった神)と共に森の中で暮らし始めました。

サンクリアンの誕生

ある日、ダヤン・スンビは森の中で織物をしていました。

突然、糸の束が落ちてしまいました。そしてダヤン・スンビは、あまり深く考えもせず、「ああ、誰か、その糸の束を拾ってください。拾ってくれた方が、もし女性ならあたしは姉妹に、もし男性ならあたしはあなたの奥さんになります」と、誓いました。

そして、あろうことか、犬になったトゥマンがその糸の束を拾い、ダヤン・スンビにそれを渡しました。ダヤン・スンビが全く想像もしていなかったことが起こってしまいました。しかし、誓いは誓いです。約束を守り、ダヤン・スンビはトゥマンと結婚してしまいました。

スンギン・プルバンカラ 王はそのことを知り、あまりの恥ずかしさに、ダヤン・スンビと縁を切りました。そして、そのときからダヤン・スンビはトゥマンと一緒に暮らしました。

ダヤン・スンビとトゥマンの間には、ハンサムな赤ちゃんが生まれ、サンクリアン(Sangkuriang)という名前を付けました。

時が経ち、サンクリアンは逞しく元気な男の子になりました。あるとき、ダヤン・スンビは鹿の肝を食べたかったので、サンクリアンに、「鹿の肝を狩ってきて」とお願いしました。

しかし不運なことに、その日は森の中で鹿が一匹も見つかりませんでした。

そんなときに、サンクリアンは猪になった女神を見つけました。すぐにトゥマンに「捕まえろ!」と命令しました。しかし、トゥマンはそれが猪になった女神だと知っていたので、捕まえることができませんでした。猪になった女神が逃げて行った後、サンクリアンは怒り、トゥマンを殺してしまいました。

そして、トゥマンの肝を採って家に帰りました。

ダヤン・スンビは、本当に嬉しかったので、その肝の正体には気が付かず、その肝を料理してしまいました。食べた後、サンクリアンはダヤン・スンビに、「実はその肝はトゥマンの肝です」と伝えました。真実を知ってしまったダヤン・スンビは怒り、サンクリアンに柄杓を投げて、頭に傷を負わせました。

そして、サンクリアンは家から逃げて行き、一度も家に帰りませんでした。一人になってしまったダヤン・スンビは、悲しくて、サン・ヒャン・トゥンガルの神に祈って、断食をしました。

サンクリアンの怒り

その後、サンクリアンは西へ行きました。

そこで、仙人と会い、仙人の下で長い間修業を積みました。

そして、サンクリアンは大人になりました。

サンクリアンは仙人の下を離れ、また東の方へ戻りました。そして、サンクリアンも気が付かないうちに、ダヤン・スンビのところに戻っていました。

ダヤン・スンビは変わらず美しかったので、サンクリアンはダヤン・スンビが自分の母だということに気が付きませんでした。そしてまた、サンクリアンは一目でダヤン・スンビに恋に落ちてしまいました。サンクリアンはダヤン・スンビを深く愛し、いつか結婚したいと考えていました。

しかしあるとき、ダヤン・スンビはサンクリアンの頭の傷を発見し、サンクリアンが自分の息子であることに気が付きました。そして、ダヤン・スンビは、サンクリアンと結婚することはできないと思いました。しかし、当然サンクリアンのダヤン・スンビへの気持ちは冷めることはありません。ダヤン・スンビは逃げられませんでした。

そこでダヤン・スンビは、サンクリアンに結婚するための条件を出しました。「大きな船を一晩で作ってください」と。しかし、仙人の下で厳しい修業を積んできたサンクリアンです。彼には作れる自信がありました。

サンクリアンは精霊たちを召喚し、手伝うように命令しました。その精霊たちがあまりに速く仕事をするものなので、ダヤン・スンビは心配になりました。そして、ダヤン・スンビはにわとりを鳴かせたり、周囲の村人たちに仕事を始めさせたりしました。まるで、朝が来たかのように見せたのです。

そうすると、精霊たちは朝が来たと思って、仕事を諦め、その大きな船の製造を途中で放り出してしまいました。

そして、サンクリアンは、夜が明けても船がまだ仕上がっていないことを知り、ひどく怒りました。サンクリアンは、その途中までできている大きな船を蹴り飛ばし、その大きな船をひっくり返してしまったのです。

現代に引き継がれるサンクリアン

そのひっくり返った大きな船が、今も残っているあのタンクバン・パラフ山だと言われています。

そして、たまに白い煙がタンクバン・パラフ山から出ているのは、未だにサンクリアンの怒りが冷めていないからかもしれない、とも言われています。

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参考:Wikipedia (Sangkuriang_(legenda))
翻訳、意訳:あいこ、KMG(バンドゥン・ポータル)
絵:ふぁふぁ(バンドゥン・ポータル)